テニスに死す テニスを通じて生きる力を何とか保持する崖っぷちのオールドビジネスマンがテニスと仕事に関しての日ごろの感想を取りとめもなく綴らせてもらいます。テニスコートは半分死にかけの陸にあがったうなぎ野郎にとっての辛うじて残された水溜りですな。言ってみれば。

ぼくのブログの題名、テニスに死すはご存知の方はお分かりの

ように、ドイツの作家、トーマス・マンの作品の「ベニスに

死す」をもじったものです。同名の映画「ベニスに死す」は

イタリア映画の巨匠、ルキノ・ビスコンティがトーマス・マン

の原作を映画化したものです。ある老作家がベニスに保養に来

て美しい美少年に魅せられ、その少年を見ることのできるベニ

スのホテルを離れることができません。あけてもくれても彼の

姿を見ることが老作家の喜びなのです。しかしその頃ベニスに

は疫病のコレラが蔓延しており、他の保養客は疫病に罹ること

を恐れて離れて行きますが、老作家は美少年のそばを離れ

ことができません。やがて美少年の家族もベニスを離れる

時がきます。残された老作家はコレラに感染してベニス

の美しい陽光のなかで、病気のせいで醜い姿となってくた

ばるのです。

私にとってローランギャロスやウィンブルドンのコートで

テニスのボールを打ち合う選手たちはまさにベニスの老作

家にとっての美少年のような存在です。常にまぶしく、若

さと美しさで輝いています。そんなコート上の美少年たち

を追いかけて毎年4大大会を観戦することが出来たら、たと

え、コレラに感染しても本望です。

今年の全仏の大会も波乱に満ちてドラマチックで美しい場

面の連続でした。ソデリングとの試合で、ソデリングの深

い右サイドへの打球を強打で返したナダルが足を滑らせて

赤土のコートにもがきながら、足をもつれさせて倒れてゆ

くシーンのスローは残酷なほどに美しいものでした。

準決勝のデル・ポトロ戦をフルセットで下した時にネット

に両手をついて一瞬くたっとしたフェデラーの、下からデ

ル・ポトロを見上げた表情にに試合中には全く見せなかっ

た精神的ストレスの大きさが感じられた。

表彰式で前生涯クランドスラムの達成者であるアンドレ・

アガシが優勝カップをフェデラーに渡したシーンもとても

よかった。アガシが終始浮かべていたやさしい微笑はとっ

ても美しくて、これも泣かせる場面だった。

ついにフェデラーはサンプラスが達成できなかった全仏で

の優勝をやりとげ、アガシについで生涯クランドスラマー

の一人となった、このあとどれくらい彼がテニスシーンで

輝くことができるかは未知数だが、僕たちはもっともっと

フェデラーのいい試合を観たいし、私が以前の記事で予言

しておいたように錦織がフェデラーを決勝戦で破るシーン

を是非とも観たい。

テニスの観客として、全大会を現地で観戦するグランドス

ラムができればどんなにいいだろう。死ぬまでにそんな機

会が巡ってくるだろうか。楽しみにしていたい。