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テニスに死す テニスを通じて生きる力を何とか保持する崖っぷちのオールドビジネスマンがテニスと仕事に関しての日ごろの感想を取りとめもなく綴らせてもらいます。テニスコートは半分死にかけの陸にあがったうなぎ野郎にとっての辛うじて残された水溜りですな。言ってみれば。

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2011年の幻想テニス

2011年の夢のコートでなんとも華麗なテニスを

繰り広げる老人プレイヤーの幻想が現実化しそうだ。

確かな、危険な予感が、幻視されたスクリーンににじみ出てくるようだ。

シャドーテニスのラケットを素振りしながら繰り出される

ボールはどれもこれもまるでイノチを与えられたもののように

鮮やかな曲線を描いて相手のコートに飛んで行き、歓喜に

満ちた躍動を見せながら跳ね回る。

七歳の少女がラケットとわが身体を鞭のようにしなわせて

ボールを打つ映像が老人を開眼させてくれた。

老人はどんどんと子供へと回帰してゆく。

非力な身体を強力な鞭へと変身させるきっかけを

つかんだのだ。風を切る彼の鞭のようなストロークは

ボールに鋭いスピンを与え相手の懐に突き刺さるだろう。

フォアに比べてより激しく風を切ることのできるバックの

ストロークはフォア以上に強烈なバウンドをボールに与える

ことになりそうだ。

何よりも老人の幻想を喜ばせるのはバックのスライスの

ショットの確かで快いタッチの感覚だ。

ちょっとした発見が大きな変化をもたらしたのだ。

この新しく編み出されたバックのスライスほどボールに

威力を与えるショットはあり得ないかもしれない。

秘訣は一瞬の快い脱力を威力に変えるタイミングだ。

老人によれば全てのショットの秘訣は脱力の快感を

いかに威力に変えるかにあるらしい。

老人が参考にしたのはある幻のテニスプレイヤーが

残した、ラケットで空気を切り裂き、目標までの真空の弾道を

切り開く術を伝授する、風神テニス、という巻物であったようだ。

ある振り方でラケットを振ると、そのラケットに捕らえられた

ボールの回転によってボールの前方のびっしりと密集した空気の

層のなかに真空の弾道が現出するのだ。ボールは空気の抵抗を

失ってものすごいスピードで飛んでゆく。

これが風神テニスが教えているスキルなのだが

まだ誰もこの技術を達成したものはないらしい。

しかしこの老人がその幻想の中で幻視したショットこそ

まさに風神テニスの巻物が教えているショットであった。

老人はその幻想の中でボールに与える回転を自在に変えることによって

実に多様な弾道を進むショットを打つことができる。

ストロークやスライスだけではないボレー、スマッシュ、サービス、

ロブ、ハーフボレー、全てのショットはこの原理で統一されている。

老人の幻想テニスと現実テニスとの間隔はどんどんと薄くなり

もうほとんど幻想テニスイコール現実テニスの域に達しつつある。

それを老人自身が感じているのだ。老人の幻想テニスはいわば

臨界に達した、幻想が現実を征服する時が来るのは

1+1=2と同じくらい確かなことだ。

これは恐ろしい、実に恐ろしい。

生身の人間には耐えられないかもしれない。

そうなると老人は人間を超越した存在へと

変わらなければ彼の生命を維持することはできないだろう。

月を見て、狼男が狼に変身せざるを得ないように。

かくして、この2011年はこの老人にとっては

恐ろしい変身が待っている一年なのだ。

しかし、どんなにその変身が恐ろしいもので

あろうとも変わらざるを得ない状況はもはや

変わらない。だから老人は変わる、変わる。

老人を知る人よ。その変身に注目あれ!



2011年のテニス | 投稿者 テニスに死す 23:15 | コメント(1)| トラックバック(0)